Knife Behind Back
パステル風の伝統的絵画に移行した時期の絵画
《Knife Behind Back》は2000年に制作された奈良美智のアクリル作品。234 × 208 cm。2019年にサザビーズが香港で開催したオークションで、当時の自身の作品の最高額である約2,500万ドルで落札された。
タイトルにナイフの存在が記述されているが、キャンバスには描かれていないため、より威嚇的に感じられる。ナイフの脅威を意図的に隠すことで、限りなく不吉なものとなり、子どもたちの予期せぬ反乱力と過激性が感じられる。
《Knife Behind Back》は、12年間のドイツ留学から帰国した2000年という分岐点の年に制作されたものである。1988年、愛知芸術大学を卒業した翌年、A.R.ペンクの指導のもと、デュッセルドルフの美術アカデミーで6年間学び、その後2000年までケルンに滞在していた。
1990年代まで奈良は新表現主義的な黒い輪郭線を持つ大胆な筆使いの作風が特徴だったが、この頃になると、奈良は徐々に伝統的な絵画技術を復活させ、より繊細になり、穏やかで、深みのある作風に変化していった。
ルネサンス期初期の画家ジョットからバルテュスまで、様々な芸術家に影響を受けた奈良は、パレットをパステル調にソフトにして、以前の作品のような荒々しい輪郭線を抑え、徐々に心地よい視覚効果を生み出した。また、大判のキャンバスを用いて、真珠のように輝く大地を背景にした少女たちの全身像を描き始めた。最も特徴的なのは、1990年代に描かれていたナイフ、チェーンソー、ピストル、クラブなどの武器が描かれなくなった。
美術史家の松井みどりによれば、1996年以降、奈良が彫刻制作をはじめた時期と並行して、絵画の人物像は「パステルカラーの背景から浮かび上がる光り輝く立体的なイリュージョン」を帯びはじめたと指摘している。
最も重要なのは、最小限の物語性、最小限の構図、最小限の絵画的枠組みの中で、鋭敏な感情効果を伝えながら、奈良はこれらの絵画的偉業を成し遂げていることである。
■参考文献
・https://www.sothebys.com/en/auctions/ecatalogue/2019/contemporary-art-evening-sale-hk0885/lot.1142.html、2020年11月17日アクセス