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【作品解説】マルセル・デュシャン「遺作」

遺作 / Étant donnés

デュシャン死後に公開された「死後の芸術」



概要


作者 マルセル・デュシャン
制作年 1944-1966年
表現形式 彫刻、インスタレーション
コレクション フィラデルフィア美術館

《1.水の落下、2.照明用ガス、が与えられたとせよ》はマルセル・デュシャンによるオブジェ作品。通称《遺作》

 

1946年から66年まで、ニューヨークの14番ストリートのアトリエでひそかにつくりつづけ、フィラデルフィア美術館に寄贈する旨の遺言を残したまま亡くなり、死後、公開された。デュシャンの生前にこの作品の存在を知らされていたのは、ティニー夫人、義理の息子のポール・マティス、画家でコレクターのウィリアム・コプリーである。

 

《遺作》が展示されている部屋に入ると、壁にアーチ状の古い木の扉が設置されている。扉の左側には小さな窓があるが塞がれていてのぞけない。しかし扉の目の高さぐらいに小さな2つの穴があり、穴を覗くと作品が見える

 

扉の先に見えるのは、まず第一に、裂け目の走る煉瓦の壁、そしてその裂け目を通して、ひろびろと開けた空間。そしてかなり離れた向こう側に顔を隠された「裸の少女」がひとり、薪のようなものの上に体を伸ばし、両脚を広げて寝そべっている。裸の少女の手には小さなガスランプが握られている。

 

裸の少女の後方には、木の生い茂る山並み、緑と赤みがかった色、下へくだると、小さな湖、その湖にかすかにかかる霞、そしてが見える。

 

なお、鑑賞者の視覚からは見えないようになっているが、床はチェスボードの模様になっている。

解説


《大ガラス》から《遺作》まで、デュシャンは一貫して「視覚」の問題をめぐっていた。そうして視覚絵画の反発として観念の芸術、思考による芸術を創造した。

 

しかし《遺作》では一度にひとりの人間が、それもつねにまったく同一の光景を見ることしかできないようになっている。さらに、この特権的な環境となった視覚の先に見えるもののあまりに明白な具象の白昼夢とは???

 

この作品自体は、さまざまな構成要素の寄せ集め、アッサンブラージュ・インスタレーションであり、また同時にデュシャンの過去のさまざまな作品の集成である。

 

題名の《1.水の落下、2.照明用ガス、が与えられたとせよ》は、《グリーンボックス》の2つのメモに見出すことができる。入り口を閉ざす煉瓦と扉は、実際にスペインのある納屋で使われていたレディ・メイドであり、デュシャンの窓やドア系作品の系譜にあるものである。背景の森と湖の風景は、写真に加工したもので《L.H.O.O.Q》の修正レディメイド作品の系譜にあたる。水を落としている滝は、穴のあいた金属板と照明効果による視覚的トリックである。ほかにもさまざまな過去のデュシャン作品の系譜に連なるものがある。

 

裸体のモデルとなっているのは、1946年から1951年までデュシャンの恋人だったブラジル人のマリアン・マルティンスと2番目の妻のティニー夫人。


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■参考文献

・図録「マルセル・デュシャン展」

Philadelphia Museum of Art - Collections Object

Étant donnés - Wikipedia