老いたギター弾き / The Old Guitarist
悲劇とわずかな希望をギター弾きで表現
概要
作者 | パブロ・ピカソ |
制作年 | 1903-1904年 |
メディウム | カンヴァスに油彩 |
サイズ | 122.9 cm × 82.6 cm |
コレクション | シカゴ美術館 |
《老いたギター弾き》は、1903年後半から1904年初頭にかけて、パブロ・ピカソによって制作された油彩の絵画です。
この作品は、ボロボロの擦り切れた服をまとい、やつれた盲目の老人が、スペインのバルセロナの通りでギターを弾く情景を描いています。この作品はシカゴ美術館の所蔵作品です。
《老いたギター弾き》の制作時期は、モダニズム、印象派、後期印象派などの絵画スタイルが融合し、またピカソに大きく影響を与えた表現主義的なスタイルが広まった時期です。
さらに、エル・グレコのマニエリスム的な歪みや、ピカソの貧しい日常生活、親友カサジェマスの自殺といった悲しい要素がピカソに強い影響を与えた「青の時代」と呼ばれる時期の作品でもあります。
X線、赤外線画像、学芸員による研究により、この老人の背後に隠れていた3人の異なる人物が描かれていることがわかりました。
背景
当時、古典的で伝統的な教育を捨て、名声を求めていたピカソは、友人のカルロス・カサヘマスとともにパリに移りました。
1年後、カサヘマスは失恋から深い絶望に陥り、自殺してしまいます。この出来事にピカソは大きな打撃を受け、うつ病と孤独感に包まれました。さらに、ピカソは非常に貧しかったため、その貧困からくる苦境な人々、娼婦、社会の底辺にいる他者と共感しました。
これらの出来事と状況が、ピカソの「青の時代」の始まりのきっかけとなりました。「青の時代」は1901年から1904年まで続き、青、灰色、黒の平面的な広がり、瞑想にふけるメランコリーな人物、そして深い重大な悲劇で特徴づけられます。
「青の時代」の後にはピカソの「ばらの時代」がやってきて、最終的にはピカソが共同創設したキュビスム運動に続きます。
分析
この作品は、鑑賞者に瞬時に強い反応を引き起こすための要素が注意深く選ばれています。
たとえば、モノクロームカラーの構成は、ギター弾きを時間と空間から乖離させ、フラットで二次元的なフォルムを生みだしています。全体的に抑えられた青色は憂鬱なトーンを引き出し、悲劇的なテーマを強調しています。
ギター弾きは生命力をほとんど失っており、死が迫っているようなポージングは、男の悲惨な状況を強調しています。一方で、手に持つ大きな茶色のギターは、青みがかった背景から最も離れたカラーで、視点を中央に引き寄せる効果を持つだけでなく、ギターは絶望的な況下にあるギター弾きにとって、唯一の生存の希望を象徴しています。
つまり、このギター弾きの主題は、ギターへの依存とそのギターから得るわずかな収入が、当時のピカソの絵画への依存とそれがもたらすわずかな収入を反映しています。
最新の研究
最近のX線とキュレーターによる検査で、老人の体の後ろに三つ人の姿が見つかりました。その三つの姿には、頭を前に傾けた老婦人、その脇にひざまずく小さな子供を連れた若い母親、そしてキャンバスの右側に動物が描かれています。
キャンバスの重要な部分で画像が不明瞭なにもかかわらず、専門家たちは最低でも二つの異なる絵画が『老いたギター弾き』の下に描かれている結論づけました。
1998年、研究者たちは赤外線カメラを使って絵具の一番上の層(「老ギタリスト」の構図)を透過させ、二番目の構図をはっきりと見ることができました。
このカメラを使うことで、研究者たちは、構図の中央に若い母親が座っており、その左腕が右側にひざまずいている子供に伸びていること、そして母親の左側に子牛か羊がいることを発見することができました。この若い女性は、流れるような長い黒髪で、思慮深い表情をしています。
シカゴ美術館は、その赤外線画像をクリーブランド美術館とワシントンDCのナショナル・ギャラリーに提供し、学芸員のウィリアム・ロビンソンは、ピカソが友人のマックス・ジェイコブに送った手紙の中のスケッチを確認しました。
そのスケッチには同じ構図の母子が描かれてますが、牛が小さな子牛の頭を舐めています。ピカソはジェイコブに宛てた手紙の中で、『老いたギター弾き』を描き始める数ヶ月前にこの構図を描いていたことを明かしています。
このような発見があったにもかかわらず、ピカソがこの構図の絵画で¥を完成させなかった理由や、老婦人がこのキャンバスでどのように位置づけられたのかは、依然として不明です。