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【作品解説】フィンセント・ファン・ゴッホ「夜のカフェ」

夜のカフェ / The Night Café

緑と赤で人間の因業を表現した夜のカフェ


フィンセント・ファン・ゴッホ「夜のカフェ」(1888年)
フィンセント・ファン・ゴッホ「夜のカフェ」(1888年)

概要


作者 フィンセント・ファン・ゴッホ
制作年 1888年
メディウム 油彩、キャンバス
サイズ 72.4cm × 92.1cm
所蔵 エール美術大学画廊

《夜のカフェ》は1888年9月にフィンセント・ファン・ゴッホによって制作された油彩作品。72.4cm × 92.1cm。エール美術大学画廊が所蔵している。

 

アルルのラマルティーヌ広場30番地にあったゴッホが寝泊まりをしていたカフェ「カフェ・デ・ラ・ガール」の店内を描いた作品である。このカフェを経営していたのはジョゼフ・ミシェルとその妻マリー・ジヌーで、ゴッホは《黄色い家》を借りるまでこのカフェで寝泊まりしていた。

 

《夜のカフェテラス》と同時期に描かれたものだが、異なるカフェであることに注意。

後期印象派の代表的作品であり表現主義の先駆


一見すると、最も典型的な印象派風の作品のように見えるが、ゴッホ自身は印象派の「世界に対するニュートラルな姿勢」や「自然や時の瞬間への美の享受」などの美術哲学を作品に投影していない。

 

そうではなく、後期印象派作品の特徴である作者の内面感情が投影された作品である。のちの表現主義と呼ばれる作風の先駆的な作品でもある。

緑と赤のコントラストが絵のポイント


「私は赤と緑で人類の因業な感情を表現しようとした。部屋には血のような赤色と濃い黄色で覆われており、中央に緑色のビリヤード台がある。またオレンジと緑の光輝を発する4つのレモンイエローのランプがある。そして絵のどこを見ても異質な赤と緑のコントラストが衝突した状態にあり、ところどころに紫と青色がある、ガランとして殺風景の部屋の中で、ほとんど眠っている与太者たちがいる。(テオへの手紙)」

 

天井や壁の緑色と赤色の壁の完璧な対比性、オレンジと緑の光輝を発して光る不吉な感じの黄色のガスランプ、床全体の黄色など、鮮やかな色彩で塗料を厚塗と大胆な筆致はシュールな雰囲気を醸しだし、鑑賞者にどこか悲哀や絶望感を感じさせる。

 

なお、この赤と緑のコントラストの絵画制作を実験したあと、《黄色い家》の黄色と青のコントラストの着想を思いついたという。

 

床板やビリヤードテーブルの対角線など部屋の中にあるさまざまなラインの多くは、後方にあるカーテンがかかったドアに集中している。前景の部屋全体から漂う悲哀さを伴いながら鑑賞者を奥にあるカーテンで隠された人間のシルエットのような形になったドアへと視線を誘導させる。

落伍者と娼婦の巣窟だった当時の「夜のカフェ」


中央奥に見えるカーテンが半分かかった戸口の部屋はおそらくプライベートルームである。店内には5人の客がテーブルについており、部屋の中央にあるビリヤード台側に立っているライトコートを着たウェイターが1人立っている。このウェイターは鑑賞者の方向へ視線を向けている。

 

5人の客のうちの3人は、飲み疲れてテーブルの上で眠り、そのまま放置されている。左奥では男女のカップルが飲んでいる。学者の話言では「当時、このカフェはアルルの落ちぶれたならず者男と娼婦たちの夜の巣窟だった」という。

 

また、ゴッホが弟テオに書いた手紙では、作品制作の動機について店主のジョゼフ・ミシェルがゴッホからたくさん飲酒代を巻き上げていたので、その復讐としてカフェ内部の退廃したムードを描いたという。

 

またこの絵画はジョゼフへの債務返済と和解のために描かれている。ビリヤードテーブル脇に立っている真っ白な服を着ている浮いたようなウェイターが経営者のジョゼフだという。