アングルのヴァイオリン / Violon d'Ingres
アングルの絵画とキキの身体のかけあわせ
概要
「アングルのヴァイオリン」は1924年に制作されたマン・レイの代表作。マン・レイはドミニク・アングルの絵画の崇拝者で、本作はアングルの憂鬱なヌード絵画「ヴァルパイソンの浴女」とターバンを付けたモンパルナスのキキからインスピレーションを得て制作された写真シリーズである。
キキのヌード写真の上に弦楽器のf字孔を描き、それを再撮影する形で制作されている。キキの体に直接描いたり、オブジェを付けてはいない。つまり、古典的、伝統的なヌードに上書きするという意味合いがある。
また、一見するとキキのヌードにちょっとだけ手を加えて身体を楽器に変容させたユーモラスなら作品だが、彼女の両腕のないポーズについてはあまり熟考されていない。マン・レイはこの作品にアングルのヌードと弦楽器を重ね合わせる意味で「アングルのヴァイオリン」というタイトルを付けたが、実はこの言葉にはフランス語で「趣味」という意味が含まれる。
バイオリンを演奏するのがアングルの趣味だったらしく、アングルがアトリエをたずねてくる人々にむりやり弾いてきかせていたという故事から来た成句で、これには余技、へたの横好きという意味合いがあるという。
つまり、マン・レイが名画を写真で再現するというへたの横好きの趣味という自身への皮肉が含まれており、また同時にキキについてもマン・レイにとって趣味(本気ではない)と考えていたように思われる。