· 

【作品解説】マーク・ロスコ「無題(黄色と青)」

無題(黄色と青)/ Untitled (Yellow and Blue)


概要

作者 マーク・ロスコ
制作年  1954
媒体 キャンバスに油彩
サイズ 242.9×186.7cm

『無題(黄色と青)』は、アメリカの画家マーク・ロスコが1954年に完成させた作品で、そのシンプルな構成と大胆な色彩によって注目を集めています。

 

2015年のサザビーズオークションでは4,645万ドルという驚異的な価格で落札され、2024年11月には香港で開催されたサザビーで3,247万ドルで落札されました。この香港での落札は、アジアで初めてロスコの油絵がオークションに出品された記念碑的な出来事でもありました。

 

この作品は、ロスコのカラーフィールド運動を代表する作品の一つで、上部の黄色、下部の青という2つの主要な色彩領域により構成されています。また、キャンバス下部には細い黄色の帯状の線が描かれており、このシンプルながらも象徴的なデザインが鑑賞者の視線を引きつけます。

 

2022年には、ロシア・ウクライナ戦争が勃発する中で、この絵が逆さまにしたウクライナ国旗に似ていると話題になり、政治的な文脈でも注目を浴びました。

 

高さ2メートルにも及ぶこの巨大な絵画は、鑑賞者の視界をほぼ完全に覆い、彼らをロスコの色彩の世界に引き込みます。この没入感は、ロスコが観る者に感情的な衝撃と興奮を与えたいという意図を反映しており、彼の作品の重要な特徴の一つです。

 

マーク・ロスコはかつて理想の絵画体験について、「小さな礼拝堂のような場所が全国に設けられ、旅人や放浪者がその小さな部屋で1枚の絵を1時間ほど眺め、瞑想できるようになればいい」と語りました。この言葉は、彼が絵画を通じて提供したいと願った深い精神的体験を象徴しています。

 

1954年、彼のキャリアの絶頂期に制作された『無題(黄色と青)』は、その理想を具現化した作品の一つです。この作品は、鮮やかで輝く表面と圧倒的なスケールを持ち、観る者に否応なく純粋な瞑想の瞬間をもたらします。

 

『無題(黄色と青)』は、鑑賞者を瞑想的な静けさの中に誘い込み、ロスコが追い求めた芸術の到達点を示しています。この作品に向き合うことで、ロスコが生涯をかけて探究した「絵画と観る者の完結した経験」を感じることができるのです。