不安を与えるミューズたち / The Disquieting Muses
第一次世界大戦の不安をほのめかす形而上絵画
概要
兵役時に描かれた作品
《不安を与えるミューズたち》は、1916年から1918年にかけて制作された形而上絵画の画家ジョルジョ・デ・キリコの作品。
第一次世界大戦時にデ・キリコが軍役でフェラーラに滞在していたときに制作されたものである。デ・キリコはフェラーラを完璧な幾何学的な街と感動し、フェラーラの神秘的な街並みを作品に何度も描いている。本作《不安を与えるミューズたち》もまた、フェラーラの町並みを描いたものである。
当時、キリコが住んでいた近くにあったエステンセ城が背景に描かれており、煙突のある工場や作品全体にかかるサビの赤色が特徴的である。
絵の中には3人のミューズが描かれている。
前景には、古典的なドレスを着た2人のミューズがいる。1人は立っており、1人は座っている。彼女らの周辺には赤い仮面や積み木など古代ギリシャ神話のミューズであるメルポメネやタリアであることをほのめかすオブジェが配置されている。また後景の台座の彫像に立っているのはアポロと言われている。
タリアはそばにある「遊び」を象徴する積み木から背を向けている。中央のメルポメネは座って佇んでおり憂鬱そうに見える。2人のミューズの間にはコミュニケーションを遮断することをほのめかす棒のようなものが立っており、何か不安な空気が漂っていることが伝わってくる。
これはおそらく、第一次世界大戦の不安を表しているものだと言われてる。奥のアポロはこの二人を不安気に見つめているが、これが鑑賞者やキリコ自身の表してたものではないだろうか。
なお《不安を与えるミューズ》というタイトルはシルヴィア・プラスの詩の「不安を与えるミューズ」から着想を得て、引用している。