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【作品解説】マルセル・デュシャン「ブッシュ」

ブッシュ / The Bush

意味のないタイトルの始まり


マルセル・デュシャン『ブッシュ』,1910-1911年
マルセル・デュシャン『ブッシュ』,1910-1911年

概要


作者

マルセル・デュシャン

制作年 1910-1911年
サイズ 127.3 × 91.9 cm
メディウム キャンバスに油彩
所蔵 フィラデルフィア美術館

『ブッシュ』は、1910年から1911年にかけてマルセル・デュシャンが制作した油彩作品です。1950年に、ルイーズ&ウォルター・アレンスバーグ・コレクションを通じてフィラデルフィア美術館に収蔵されました。もともとの所有者は、レイモン・デュムシェル博士でした。

 

フォービスムに影響を受けて制作された作品で、茂みや森などの自然環境を思わせる抽象的な葉を背景に、裸の女性が2人描かれています。

 

左側の人物は膝を立てて座り、前方を見つめています。一方、右側の人物は同じ方向を見ながらも、自信に満ちた姿勢で立っています。

 

この2人の姿は、様式化されており、形が単純化されています。輪郭は力強く、人体の細部の描写は意図的に抑えられています。また、鮮やかで非現実的な色彩と、はっきりとした輪郭の表現は、フォーヴィスム(野獣派)の特徴を反映しています。

 

 

描かれている人物のうちの右側は、デュシャンがかつて交際していたジャンヌ・セーレである可能性があります。彼女は、デュシャンの唯一の子どもであるイヴォンヌ・セーレ(1911-2003) を産んだ女性ですが、イヴォンヌが生まれた年に亡くなっています。

 

左側の膝をついてまっすぐ見つめている女性は、デュシャンの妹の可能性があります。一人は立ち、膝をついている女性の頭に手を置き、キリスト教の洗礼儀式的な雰囲気を出しています。

 

デュシャンは、この作品が説明的なタイトルを付けないという自身の習慣の始まり だったと述べています。「この絵画は特定のテーマを明確に描いたものではないが、『ブッシュ』というタイトルを与えたことで、後からテーマを自由に発明する余地が生まれた」と語っています。


■参考文献

https://en.wikipedia.org/wiki/The_Bush_(Duchamp)、2025年2月7日アクセス

https://philamuseum.org/collection/object/51419、2025年2月7日アクセス