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【作品解説】エドヴァルド・ムンク「赤いアメリカヅタ」

赤いアメリカヅタ / Red Virginia Creeper

不倫の光景を目の当たりにした緑の男

エドヴァルド・ムンク『赤いアメリカヅタ』
エドヴァルド・ムンク『赤いアメリカヅタ』

概要


作者 エドヴァルド・ムンク
制作年 1898-1900年
サイズ 119.5 × 121 cm
メディウム キャンバスに油彩
所蔵 オスロ・ムンク美術館

『赤いアメリカヅタ』は、エドヴァルド・ムンクが1898年から1900年にかけて制作した油彩作品です。

 

この絵には、恐ろしい光景から逃れようとする男性の姿が描かれています。首を切られたかのような男性の頭部は「死」を暗示し、葉を落とした不毛な木や切り落とされた枝の切り株、まるで血に染まったかのようなアメリカヅタに覆われた家が、彼の心に忍び寄る不安と響き合っています。

 

赤い家で恐ろしい光景を見た不気味な緑がかった顔色をした男性は、ねじれた道をたどりながら、まるで鑑賞者の方へ向かって逃げてくるように見えます。

 

この作品は「嫉妬」や「不倫」を表していると示唆されています。その特徴のいくつかは、ムンクが1895年に描いた『嫉妬』と共通しています。例えば、暗い服を着た人物は、『嫉妬』に登場するポーランドの詩人スタニスワフ・プシビシェフスキにどことなく似ており、背景に描かれた血のように赤い家は、彼の妻であるダグニー・ユエルを想起させます。

 

 

この頃ムンクは、ダグニー・ユエルと不倫関係にありました。その三角関係はムンクのさまざまな作品で示唆されます。

エドヴァルド・ムンク『嫉妬』,1895年
エドヴァルド・ムンク『嫉妬』,1895年

19世紀末頃、ムンクの総合主義的な作風には次第に崩壊の兆しが見え始めました。本作はその代表的な例といえます。

 

色彩は以前より明るくなったものの、コントラストの対比が不十分な部分があり、ポジとネガの線、平坦な色彩と変調のある色彩の領域が無秩序に混在しているため、一部ではパターンの弱さが感じられます。

 

しかし、その混沌とした構成こそが本作の力強さを生み出しており、不安や動揺をいっそう際立たせています。