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【作品解説】マルセル・デュシャン「画家の父の肖像」

画家の父の肖像 / Portrait of the artist’s father

個人的な親密さと芸術的な実験の融合


マルセル・デュシャン『画家の父の肖像』,1910年
マルセル・デュシャン『画家の父の肖像』,1910年

概要


作者

マルセル・デュシャン

制作年 1910年
サイズ 92.4 x 73.3 cm
メディウム キャンバスに油彩
所蔵 フィラデルフィア美術館

『画家の父の肖像』(1910年)は、マルセル・デュシャンがフォーヴィスムのスタイルで描いた油彩画です。

 

作品には、ダークスーツに白い襟を身に着け、椅子に座る高齢の紳士が描かれています。彼はデュシャンの父親であり、画家にとって特別な存在でした。

 

この肖像画の特徴は、穏やかで思索的な姿勢にあります。父親は頭を手の上に置き、足をさりげなく組んで座っており、全体に静かで内省的な雰囲気が漂っています。

 

また、背景にはフォーヴィスム特有の鮮やかで力強い筆致が用いられ、非現実的な大胆な色彩が、画面に独特の感情の激しさをもたらしています。

 

この作品は、個人的な親密さと芸術的な実験の融合ともいえるものです。デュシャンは、愛情を込めて父の姿を描きながら、同時に色彩や構図の探求にも挑戦しました。

 

また、1910年にフランスのルーアンで23歳のときに描いた多くの肖像画シリーズのうちの1 枚で、1907年に死去した「我々すべての父」と呼んだポール・セザンヌに対する強い関心が表れています。デュシャンは、この肖像画を「親愛の情と混ざり合ったセザンヌ崇拝の典型的な例」と話しています。

 

公証人であった父ウジェーヌ デュシャンは、マルセルと 5 人の兄弟 (うち 3 人は芸術家) を慈悲深く寛大に支援しました。デュシャンは、芸術への関心を追求することを許してくれたのは父親のおかげだとし、父親の経済的援助のおかげでセザンヌへの関心を探求することができ、セザンヌが自身の芸術的発展の新たな可能性を開いてくれたと語っています。