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【作品解説】マルセル・デュシャン「デュモシェル博士の肖像」

デュモシェル博士の肖像 / Portrait of Dr. Dumouchel

科学とオカルトが交差する初期作品


マルセル・デュシャン『デュモシュエル博士の肖像』,1910年
マルセル・デュシャン『デュモシュエル博士の肖像』,1910年

概要


作者

マルセル・デュシャン

制作年 1910年
サイズ 100.3 x 65.7 cm 
メディウム キャンバスに油彩
所蔵 フィラデルフィア美術館

『デュモシェル博士の肖像』(1910年)は、マルセル・デュシャンが幼なじみのレイモン・デュムーシェルを描いた油彩画です。彼は医学を学んでおり、特に放射線学を専門としていました。

 

この肖像画の特徴は、非現実的な色彩と強烈なコントラストにあります。特に、デュモシェルの手と上半身を取り囲む鮮やかなピンクの後光と緑の背景が目を引きます

 

手の後光は、1985年の研究で、当時新興分野だったX線を象徴するものと解釈されました。X線は、人間の目には見えない世界を映し出す技術であり、デュモシェルが日々研究していたものでした。

 

しかし、この輝きにはもう一つの意味があるとも考えられます。デュシャンはオカルトや超自然的な力にも関心を持っており、手かざしによるヒーリングにも興味を示していました。

 

そのため、彼はデュモシェルの左手をオーラに包まれたように描き、X線の科学的な視点と、手による治癒力という神秘的な側面の両方を表現したのです。

 

デュシャンは後年、アレンスベルグ夫妻に宛てた手紙の中で、「この肖像画は非常にカラフルで(赤と緑)、ユーモアがあり、単なる網膜的な絵画を放棄するという私の将来の方向性を示していた」と語っています。

 

いずれにせよ、この肖像画は、芸術家は直接的な視覚的描写を超えて、芸術制作の精神的側面を強調するよう努めるべきだという彼の生涯にわたる信念の初期の表現として成立している。


■参考文献

https://en.wikipedia.org/wiki/Portrait_of_Dr._Dumouchel,2025年2月5日アクセス

https://philamuseum.org/collection/object/51417,2025年2月5日アクセス