ポリエ二・パパペトル / Polixeni Papapetrou
アイデンティティ生成を探求した写真家
概要
生年月日 | 1960年11月21日 |
死没月日 | 2018年4月11日 |
国籍 | オーストラリア |
表現媒体 | 写真、絵画 |
公式サイト | https://www.polixenipapapetrou.net/ |
ポリエ二・パパペトル(1960年11月21日-2018年4月11日)はオーストラリアの写真家。人間のアイデンティティ生成、特にサブカルチャーに関わる人物を探求した写真作品で知られている。
代表的な写真シリーズとして、初期から2000年にかけては、エルビス・プレスリーの熱狂的なファン、マリリン・モンローの扮装者、ドラァーグクイーン、プロレスラー、ボディビルダーなどサブカルチャーに関わる人物を被写体にしていた。
2000年以降になると、自身の娘をモデルにルイス・キャロルのベアトリス・ハッチの写真を模倣した作品シリーズが代表だが、子どもを主題とした作品が多くなる。
さまざまなアイデンティティ、表現、子どもを積極的に探求するとともに、背景に印象のある風景、華やかな衣装、マスク・仮面などがよく作品に取り入れられるのも彼女の特徴だ。
作品内の主役となるのは彼女の2人の子ども、オリンピア・ネルソン(1997年生まれ)とソロモン・ネルソン(1999年生まれ)だった。
略歴
プレスリーファンや理想の女性像を探求
パパペトルは1960年にメルボルンでギリシア移民の家族のもとで生まれた。メルボルン大学に入学し、1984年に芸術学と法学の学位を取得して卒業。1997年にロイヤルメルボルン工科大学で芸術学位を取得し、2007年にはモナシュ大学で博士号を取得。なお、1985年から2001年まで彼女は弁護士と活動していた。
「子供時代」が彼女にとっての芸術アイデンティティとして一般的に知られているが、活動初期においてはほかにもさまざまなアイデンティティを探索していた。
パパペトルの写真撮影を通じた芸術表現は1987年初頭からはじまる。1987年から2005年までパパペトルは、エルビス・プレスリーのファンや、メルボルン公共墓地でプレスリーの死を追悼して彼に扮装する熱烈なファンたちを撮影してきた。このシリーズは『エルビスは死なない』というタイトルで1987年から2002年まで続けられた。
エルビス・プレスリーへの関心は彼と同じくらい影響力のある女性像であるマリリン・モンローへと移することになった。2002年に『マリリンを探して』というシリーズの写真を撮影している。ファンや信奉者に焦点を当てた『エルビスは死なない』シリーズと異なり、ハリウッドの産物としてのマリリン・モンローと幻想に焦点をあてた。また、現代の女性の象徴であるマリリン・モンローと古典美術における理想的な女性像を対比させた。
このような被写対象の変化は、絶えず変化していく状況においても不変的な自身のアイデンティティを模索していたと考えてもよういだろう。
身体改造への関心
1990年から2002まで、パパペトルは身体や衣装を基盤にしてアイデンティティを構築することに関心を持ち、また同時にボディビルダーやドラァーグクィーンたちを探求していった。
90年代に入るとパパペトルはプロレスラーやボディビルダーたちを撮影し始める。サーカス団の生活にも関心を持つようになり、90年代初頭にメルボルンにあるシルバーズ・サーカスやアシュトン・サーカスのパフォーマーたちを撮影するようになる。
その後、北メルボルンのナイトクラブや、メルボルンのサン・レモ・ボールルームででドラァーグクイーンを撮影するようになる。これらの作品は2013年にメルボルンの現代写真センターで開催された「Performative Paradox」展で展示さた。
1996年にメルボルンの現代写真センターで開催された個展『洗練された身体』では、これらの写真を展示して、ジェンダーにおける生物学的な側面や社会的構造を反映させた。たとえば、どのようにボディビルダーはダイエットやトレーニングを通じて自身の身体を改造したかが分かるよう展示構成されていた。
また、古代ギリシア美術における理想的に身体構造とボディビルダーたちの理想美の関連性を結びつけた。
子どものアイデンティティ生成に焦点を当てる
2002年にパパペトルは、子ども時代のアイデンティティ表現を探求し始める。パパペトルはさまざまな状況下における子どもの姿を探求していると話している。
いろいろな姿に変化させられた子どもたちの姿を見ることで、成長による身体の変化や、当てられた役割を演じることで変化するアイデンティティの発展プロセスに、彼女自身が魅了されているかがわかる。
ルイス・キャロルへのオマージュ作品
2003年の『ドリームチャイルド』シリーズは、19世紀の写真家チャールズ・ドジソンの写真を基盤にした作品である。彼女はドジソンが撮影した子どもの写真をリメイクする作品を制作した。
彼女は自分の娘オリンピアにドジソンが撮影した少女たちと似た服装を着せ、同じ背景で、同じポーズをさせて撮影した。『ドリームチャイルド』シリーズは、2003年にヴィクトリアのベンディゴ・アート・ギャラリーで展示が行われた。
また、2004年には『不思議の国のアリス』を主題にした写真シリーズを行う。娘オリンピアをアリスを演じさせ、子どもの心理面と肉体面を探求した。写真撮影をする際には、ジョン・テニエルの挿絵で描かれたオリジナルの出版物『不思議の国のアリス』で登場したイラストレーションを基盤にして、劇場から背景や小道具を実際に借りて撮影を行った。このシリーズは2004年にソドニーのスティールズ・ギャラリーで展示された。