加藤泉 / Izumi Kato
プリミティブの復権
概要
加藤泉(1969年生まれ)は日本の画家、彫刻家。武蔵野美術大学造形学部油絵科卒業。学生時代にプリミティブ・アートやアール・ブリュットの影響を受ける。
不穏な顔をした子供、手足の発達した胎児、不明確な形をした体に閉じ込められた幽体。加藤泉が描き出す生き物たちは、謎に包まれている。欧米で発達抽象絵画とプリミティブ・アートを折衷したような作風が特徴である。
加藤の制作の源泉には子どものころから慣れ親しんだ八百万の神々や妖怪の姿があるという。原始的な芸術を想起させる表情は、トーテムや、アニミズムの信仰を想起させる。理性よりも直感に頼らない原始的で普遍的な人間性を体現した不思議な存在たちは、見る者を自己認識へと誘う。
加藤は1992年に武蔵野大学油画科を卒業。2000年代以降、国内外で展覧会を開催し、革新的なアーティストとして注目を集めてる。2007年、第52回ヴェネチア・ビエンナーレ国際展(ロバート・ストー・キュレーション)に招待された。東京都現代美術館、国 立国際美術館、箱根彫刻の森美 術館等、展覧会に多数参加している。
2007年、イタリアの第52回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際企画展に招待をきっかけに、現代美術家として注目を集めるようになる。
略歴
加藤泉は1969年、島根県に生まれた。父は地元の工場の溶接工でミドルクラスの家庭で育った。
近隣には、国引きの神話と八百万の神々の集いで知られる出雲大社や、伝奇作家・小泉八雲の旧宅や、妖怪漫画の巨匠・水木しげるの故郷があった。そのためか、古い宗教がある土地でアニミズムのような考え方、そしておばけや妖怪の文化が日常的にあふれていた。
また、自宅が海の近くであり、山も川も神社も多く、こうした独特な地にルーツを持ったことがのちの加藤の創作活動にも多大な影響を与えているという。
加藤によれば、「島根は自分の思想的な部分に大きく影響を与えていて、東京は外国に住んでいるような気分で住んでいいて、田舎で人が干渉する島根と違い東京はいい意味であまり人に干渉されません。それは制作の環境においてすごく都合が良い」という。
高校時代、教育実習に来た美大生に感化され、武蔵野美術大学造形学部油絵学科に入学。在学中は芸術にあまり興味がなく、音楽活動をしていたという。ちなみに現在も創作のかたわら、THE TETORAPOTZという覆面ロックバンドを組んでドラムを叩いている。
ただ、日本経済が良いこともあって日常的に美術館で世界的な芸術をたくさん見ていたという。在学中に、加藤が影響を受けた芸術家としては、キーファー、クレメンテ、大竹伸朗、奈良美智、長谷川繁などが挙げられる。
1992年に、同大学を卒業すると、建設業やアルバイトをしながら絵を描き、定期的に貸し画廊で作品を発表する。当時の日本はまだコマーシャル・ギャラリーはほとんどなく、金を貯めて貸し画廊で発表するのが一般的だった。
30歳くらいのときに、思いのほか芸術への興味が冷めなかったため、本格的に芸術活動に専念しはじめる。
2003年から絵に行き詰まりを感じはじめスランプ気味になってきたので、絵画と並行して木彫制作を始めるようになる。加藤は「彫刻は人のかたちだけ作ると勝手にこの世界と接続する。絵画は四角の面のなかに世界と交わる要素を作らなきゃダメだから難しい。絵画は二次元の中に、私たちのいる世界(=三次元)に匹敵する世界を描かなければなりません。でも彫刻はそのものが三次元の立体物なので、自動的に日常の世界(三次元の世界)に接続します」と繰り返し話している。
作家活動を始めた当初は、かたちが定まらない胎児を思わせる不思議な姿を描いていた。その後、徐々に形が明確化し、人体らしき形へと向かい始め、男性と女性のペアのポートレイトが中心となる。
しかし、結婚して子どもができたことで、男性と女性に子どもを加えるようになる。また「3」という数字の概念に関心を持ち始める。なお加藤は、筆ではなく自分自身の指を使って油彩画を制作をしている。
2005年にアメリカ合衆国ニューヨークのジャパン・ソサエティー・ギャラリーで行なわれた美術展「リトルボーイ:爆発する日本のポップカルチャー」で、ロバート・ストーの目に留まり、2007年のヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展に招待される。これをきっかけに国内外で評価を高め、注目を集めるようになる。
近年ではソフトビニール、石、ファブリックなど多様な素材を用いたインスタレーションを展開するほか、新たに版画制作にも取り組んでいる。「使えるものはなんでも使う」というプリミティブ芸術でおなじみのブリコラージュ手法を積極的に利用しはじめている。
2018年には北京・レッドブリック美術館(2018)で日本人初となる個展を開催。
■参考文献
・加藤泉 LIKE A ROLLING SNOWBALL
・https://www.perrotin.com/artists/Izumi_Kato/177#biography、2020年4月30日アクセス