【作品解説】マルセル・デュシャン「折れた腕の前に」

折れた腕の前に / In advance of the broken arm

新大陸と旧大陸の差異


概要


作者 マルセル・デュシャン
制作年 1915年 
メディウム 木製の柄に、鉄製のシャベル
サイズ 132cm
コレクション ニューヨーク近代美術館

《折れた腕の前に》は1915年のマルセル・デュシャンのレディ・メイド作品。「レディ・メイド」という名称で呼ばれた最初のオブジェ。1915年にニューヨークにいたデュシャンは金物屋で雪掻きシャベルを買い求め、その上に《折れた腕の前に》と書いた。

 

デュシャンによれば、タイトルには何の意味もないという。

「それは1本の雪掻きシャベルで、私はそれが何の意味も持たないタイトルを望んでいたのですが、実際には何かしら意味を持ってしまうのですね、しかし私は、とくに英語では、それが何ら重要性を持たないと思ったのです。もちろん、連想は容易です。雪かきしているときに腕が折れるかもしれない。でもやはりそれはちょっと単純すぎる。」

 

雪掻きシャベルの批評には、ミシェル・ピュトールの興味深い指摘がある。

 

「雪掻きシャベルは、アメリカ的なもの、すぐれてニューヨーク的なものとして見える。それは、そのころパリの家庭にどこにでもあるもので、デュシャンがレディ・メイドとしても利用したボトルラックと同じように、ニューヨークの家庭ではどこにでもあるものだった。しかし、雪掻きシャベルはその頃のパリにはなかった品物である。従って雪かきシャベルは、離れてきた旧大陸と新大陸の間の差異の標識となり、タイトルの《折れた腕の前に》には内的葛藤の強迫観念が結びついている。」

 

実際にデュシャンはこの後、こうした旧大陸と新大陸の差異を抱え込み、新旧両大陸を何度も行き来しながら、次第に制作の本拠をアメリカへ移行していった。

 

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