サルバドール・ダリの初期の代表作「グレート・マスターベーター」をご存じでしょうか？幻想とダリの恐怖症を融合させ、ダリが得意とするシュルレアリスムを反映したこの制作には、注目すべき体験や影響があったようです。この記事では、この大いなるオナニストの傑作をより深く掘り下げていきます。

《グレート・マスターベーター》は、1929年にサルバドール・ダリによって制作された油彩作品。《記憶の固執》とともにダリの初期の代表作とみなされている。《記憶の固執》の24 cm × 33 cmに比べるとはるかに巨大な110 cm × 150 cmもある。作品は現在、スペインのマドリードにある国立ソフィア王妃芸術センターに所蔵されている。

中央の目を閉じて下を向いているような形は、ダリを表現しているす。この像は、ダリが育ったカタルーニャ地方のポルトリガトの海岸線にある岩である。

ダリは自画像と岩を同一視して描いている。ダリはポルトリガト海岸に点在する不思議な岩からインスピレーションを得て、作品を制作していた。

この黄色い自画像は2年後の1931年に制作された《記憶の固執》で描かれている白い生物と同じものである。《記憶の固執》では岩ではなく、白い柔らかい物体になっている。またその後、1954年に制作された《記憶の固執の崩壊》ではゼラチン状になっている。

白い柔らかい物体らしきものは、頭頂部にあるイカリにひっかかっている。

この作品が描かれた1929年は、生涯のパートナーとなるガラと出会った年である。岩の頭の後ろ側にある横向きの女性像はガラの顔である。

後頭葉にガラがくっついているのは、そのタイトルが示すとおり、ダリのガラへの想い表現しているといわれている。

性的刺激による興奮期には、後頭葉が活性化され、さらに小脳虫部の一部が特異的に活性化することがわかっている。

女性の口は薄着の男性の股間の近くにあり、口に含まれる可能性を示唆している。太ももが硬直しているのは、ダリにとっては初体験だから緊張しているからだろう。

そして、太ももには血が流れている。これは去勢恐怖を暗示している。 男性における去勢と恐怖はエディプス・コンプレックスを暗示している。ダリはジグムント・フロイトの影響が大きく、無意識的な去勢不安と性的不安がかなりあり、ダリと父親との葛藤を表現している。

性的不安要素はこの画面のいたるところで暗示されている。たとえばダリの顔にはイナゴがとまっている。イナゴ恐怖症だったダリは、非常にパニックになっている状態を表現するときにいつもイナゴを使っている。

顔にたかるアリもダリの表現としておなじみで、《記憶の固執》や『アンダルシアの犬』まで、ダリの作品内に多く登場するモチーフである。アリはダリにとって「死」や「減退」を象徴するものである。

頭の下を這うイナゴやアリはダリの妄想的寄生虫症の体験から由来している。この病気は1937年まで発表されなかったが、ダリは自伝の中で、虫が皮膚を這う感覚に悩まされたことを述べている。いわゆる「むずむず脚症候群（レストレスレッグス症候群）」だったのだろう。

この絵は、ダリの性に対する深刻な恐怖心と欲望との葛藤を表現している。なぜならダリは子どものとき、父親から性教育としてたくさんの梅毒患者の写真を見せられたため、性に対する恐怖心が刷り込まれているからである。性病にかかってグロテスクに損傷した性器の写真はダリのトラウマとなった。

しかしこの絵画は「死」だけを表現しているわけではなく、「生」も表現されている。

背景には二人の人物と一人の人物が描かれ、卵が配置されている。卵もダリのトレードマーク。ダリ美術館の屋根にもたくさん設置されている。ダリにとって卵は率直に「生」を象徴するものである。

その下の風景には、3人の人物が配置され、卵（豊穣の象徴としてよく使われる）などがまばらに置かれている。

風景画の人物のうち接吻している二人は長い一つの影を落としている。もう一人は遠くへ向かって急いで歩いているように見える。

 《記憶の固執》などたびたびダリ自身が登場するグレート・マスターベーターだが、よく比較されるのがヒロニエム・ボスの《悦楽の園》である。この作品の左側の岩の絵が大自慰者によく似ている。

■参考文献

・ソフィア王立芸術センター

・The Great Masturbator-Wikipedia

・西洋絵画の巨匠 (3) ダリ

・Salvador Dali, And His Paintings

サルバドール・ダリに戻る