【作品解説】マルク・シャガール「誕生日」

誕生日 / The Birthday

ベラとの結婚前に制作した絵画


概要


作者 マルク・シャガール
制作年 1915年
キャンバス 油彩、メディウム
サイズ 80.5×99.5cm
コレクション ニューヨーク近代美術館

「誕生日」は、1915年にマルク・シャガールによって制作された油彩作品。80.5×99.5cm。ニューヨーク近代美術館が所蔵している。

 

描かれている男性はシャガール本人、女性は1908年にサンクトペテルブルグで会ったシャガールの最愛の妻ベラ・ローゼンフェルドである。この作品はベラと結婚する数週間前に制作されている。

 

シンプルな黒いドレスを着たベラは、花束を手にして窓の方向へ向かっているように見える。身体は軽く浮いている。そしてベラの後ろにいるシャガールはベラより高く浮遊し、非現実的に首が伸びてよじ曲がり、彼女の頭上を越えて強引にキスをしている。一見すると浮き足だった恋愛絵画のように見えるが、ベラの顔は鮮やかに明るく描かれているが、シャガールの顔はどこか青くて暗い点に注意したい。

 

この妙な描き方は、結婚前にシャガールが遭遇したさまざまな出来事が反映されているように思える。シャガールはベラの両親を説得するのに苦労した。ベラの両親は貧しい家庭の出身の画家の経済面が心配だったという。

 

また、結婚式の予定は本来、前年の1914年だったが、運悪く第一次世界大戦が勃発。国境が封鎖されたため、当時ドイツにいたシャガールは敵国となったベラのいるロシアに帰れなくなってしまった。そのような引き離された当時の2人状況が、表情や身体に反映されているのかもしれない。

 

ただし、身体が離れているがキスをしている妙なこの構図は、絵画の鑑賞者がカップルと同じ部屋にいて、2人の親密な時間に侵入しているような感覚になるともいう。

 

絵画で使われている主要カラーは、赤、緑、黒、白であるが、これはシャガールが影響を受けていたカジミール・マレーヴィチの抽象絵画運動シュプレマティスムの色彩理論をうまく反映している。