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【作品解説】マルク・シャガール「私と村」

私と村 / I and the Village

夢のような農村風景を都会的なキュビスムで描く


ふしぎな色彩、ゆがんだ形、空に浮かぶ人々——マルク・シャガールの絵を見たことがありますか?彼の作品には、現実とはちがう 夢のような世界が広がっています。その代表作のひとつが 『私と村』 です。シャガールが生まれ育ったロシアの村での思い出や、ユダヤ教の文化、農民と動物のつながりが、まるで魔法のようにひとつの絵の中に溶け込んでいます。

概要


作者 マルク・シャガール
制作年 1911年
メディウム 油彩、キャンバス
サイズ 192.1 cm x 151.4 cm
コレクション ニューヨーク近代美術館

『私と村』 は、ロシア出身の画家マルク・シャガールが1911年に描いた絵で、現在はニューヨーク近代美術館に所蔵されています。この作品は、シャガールがフランスのパリに移った後に制作されたもので、彼の故郷への思い出がたくさん詰まっています。

 

この絵には、おとぎ話のような農村の風景が描かれています。ただし、普通の風景画とは違い、物の形がゆがんでいたり、重なり合っていたりして、まるで夢の中の世界のように見えます。これは、当時の前衛的な都会芸術スタイルであるキュビスム(立体派 の影響を受けているからです。

 

このタイトルは、シャガールが生まれ育った村ヴィーツェプスク(現在のベラルーシ) にちなんでいます。彼が幼い頃に見たユダヤ教の文化や農村の暮らしの思い出が、この絵の中にたくさん詰め込まれています。

鑑賞ポイント

✔ キュビスムの影響を受けて、形がゆがみ、ものが重なり合っている

✔ 農村の暮らしやユダヤ教の文化が描かれている

✔ 人と動物のつながりや夢のような世界が表現されている

どんなものが描かれているか


この絵には、たくさんのふしぎなものが描かれています。

 

① 緑色の顔をした男性と山羊

・絵の中央には、ピンクの帽子をかぶった緑色の顔をした男性が山羊をじっと見つめています。

・山羊の頬には、小さなヤギのミルクをしぼる女性が重なって描かれています。

 

→ これは、人間と動物が協力しながら生きる農村の暮らし を表していると言われています。

 

② 男性の手に握られた木

・男性の黒い手には、光る木 が描かれています。

 

→ これは、ユダヤ教で「生命の樹」と呼ばれる 神聖な木を象徴していると考えられます。

 

③ 教会や家、逆さまの人々

・背景には教会や家が立ち並んでいます。

・教会の入口には女性の顔が描かれています。

・道には、鎌をかついだ男性や、逆さまになったバイオリンを弾く女性もいます。

・さらに、家の一部も逆さまになっています。

 

→ これらの不思議な描き方によって、夢のような魔法の村が表現されています。

キュビスム


シャガールは子どものころから幾何学(数学の図形) に興味を持っていました。そのため、彼の絵の中には 三角形、四角形、円 などの形がたくさん使われています。

 

たとえば、この絵の中にある 大きな円 は、太陽や月、地球を表していると考えられます。左下の円は日食の月になっています。

ユダヤ教とキリスト教


この絵の面白い点は、さまざまな文化が一緒に描かれている ことです。

 

・シャガール自身はユダヤ教の信者でしたが、この絵の男性の首にはキリスト教の聖アンドルーズ十字架のネックレス がかかっています。

・また、「生命の樹」や「十字架」など、ユダヤ教やキリスト教の 宗教的なシンボルも見られます。

 

→ 異なる文化や宗教が一緒に存在する世界を、シャガールは絵の中で表現したかったのかもしれません。


 ■参考文献

Marc Chagall. I and the Village. 1911 | MoMA、2025年2月19日アクセス

I and the Village - Wikipedia、2025年2月19日アクセス