子どもの脳 / The Brain of the Child
書物としおりの弱々しい性的結合を嘲笑
概要
「子どもの脳」は、1917年にジョルジョ・デ・キリコによって制作された油彩作品。エディプス・コンプレックスが主題である。
「子どもの脳」というタイトルが少年期の心象風景の想起である。意識のバリアである半開きのカーテンの向こう側には半裸で目を閉じて日頃の権威はすっかり剥奪されている父親がいる。立派な口ひげも、今となっては滑稽で小道具でしかない。手前の金色の美しい書物には朱色の細ひもがはさまれている。
この本は母親の身体象徴であり、そこに挿入された細いしおりは父親の性器だというのだ。父の向かって右肩後方には、太い立派な塔が父を圧倒する性的シンボルのようにそびえている。その横の優美な建築の窓は女性器の象徴だから、塔と窓の関係は、書物としおりの弱々しい性的結合を嘲笑し、息子のエディプス的願望を物語っているのである。
1920年の始め、アンドレ・ブルトンは、パリのポール・ギョーム画廊で展示された子どもの脳」という絵をバスの車窓から偶然みかけて、衝撃を受け、バスをおりてしまったという。またブルトンの仲間の画家イヴ・タンギーも、キリコの「子どもの脳」を車窓で見かけて同じくバスをおりてしまったという。
キリコの作品が暗示する発想が、みじめな姿の父親にイメージ化された旧世代の権威への新世代による無意識的な反抗であることは、認めてはよいだろう。ブルトンは「子どもの脳」を長いこと手放さず、パリにあるアトリエの壁にかかげていたようである。