近藤聡乃「果肉」
2008年の個展「果肉」の意義
概要
アニメーション作家からファインアートへの転換期
「果肉」は、2008年に東京のミヅマアートギャラリーで開催された近藤聡乃の個展。本展はすべて油彩の作品で構成されており、これまでのアニメーション作家としての近藤聡乃から、画家・ファインアートとしての近藤聡乃への脱皮をはかった展示といえる。本格的に油彩作品の展示は初めてだったと思われるが、その作品の完成度はきわめて高いもので、彼女の生まれ持った芸術的才能が遺憾なく発揮されていた。
近藤がアニメーションから絵画に移行した背景にはアニメーションに対する懐疑がある。近藤は前回の個展でアニメーション『てんとう虫のおとむらい』を発表したが、その後、約3000枚の原画からなる動画をあらためてを見返したときに、絵画のような「1枚の絵」として成り立っている原画がほとんどないことにショックをうける。そして、絵画として成立していない薄っぺらい絵の蓄積であるアニメーションに対して違和感を覚えるようになったという。
また、コンピューター上で背景と合成された絵の物質感のなさは、今まで自分が何を描いていたのかという漠然とした不安を彼女に生じさせ、枚数よりも存在感のある1枚を描きたい、という思いが絵の具を積み重ねて描いていく油彩に着手するきっかけになった。
個展のテーマ
また、本展のテーマは「人と植物の交わり」である。
それは人間が植物を食べ、逆に食べられ、また果実が人間の内臓の様子をていしてと、「人と植物の中間のもの」という意味でもある。それは近藤の表現の核である「曖昧性」を表現したものである。
果実とおもわれるものが、女性器のようにもみえ、その左右対称の形態には自顔が写り込んでいる。この技法はシュルレアリストの巨匠サルバドール・ダリが使っていた「偏執狂的批判的方法」のように思える。
偏執的批判方法とは、ダブルイメージで「○○が○○に見える」というものである。ダリの作品の特徴は「凝視」による現実の変容である。ダリが描く風景は地中海の強い光と乾いた空気のなかの岩山や砂絵だが、ダリはこの風景をジッと凝視するうちに風景が変容してちがうイメージが現れてたという。
近藤のアニメーション作品で、よくボタンが虫に変化したりするが、絵画で表現するとこのようなシュルレアリスム手法を利用することになるのだろう。日本でほかにあるモノがほかのモノや自分に見える表現する作家としては、石田徹也が挙げられるだろう。